最終章/白の南風、来る陽光
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断言しよう。これが最後の夜だ。いや、最後の闇と表現した方が正しいのだろうか。
闇の大部分は消えた。ここに在る闇は、消えた闇と同質のものであり、また異質のものでもある。
「大筋はアンタの予知通りだったよ。誤差は死人の数ぐらいさね」
闇に相対して、俊足の鬼、捷疾鬼は言った。
「これで人間は鬼共に対する神剣(切り札)を失った。と同時に鬼共は人間を脅かす鬼神(後ろ盾)を無くしたわけだ。これで均衡が保たれる」
───闇はたしなめた。
「ああ、わかってる。当面の間は、だろ? そのためにオレがいて、あんたがいる」
───闇は訊ねた。
「オレ? ………さて、どうするかね。これであと百年はヒマになるだろうからなぁ」
あごさきを親指に乗せて捷疾鬼は思案した。それから頭の後ろで手を組み、気楽に答える。
「ま、もうしばらく楽しい高校生活ってヤツを送らせてもらうさ。からかい甲斐のあるバカもいるしな」
───闇は了承した。
「オレのことより、アンタの方こそどうするんだ?」
───闇は答えた。
「寝る? ああ、そうか、そろそろ“起きる”時間だったな」
───闇はねぎらい、沈黙した。
「それでは、お休みなさいませ“阿防羅刹鬼”様。………そして、おはよう御座います“眠り姫”様」
道化めいた会釈をして、彼女は───狐塚勇樹はその場をあとにした。