第漆章/無明長夜


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 光の源は漆黒の殻を捨て、遙か天空を目指す。煌めく虹を箒に残し、高く高くどこまでも昇っていく。

 縺れるように、溶け合うように、命の残滓でしかない光は、まるで愛し合う恋人のように寄り添って───闇を裁ち切り、暗雲をつらぬき、そして宇宙(そら)の彼方へと消えた。

 ─── 一瞬の輝きだった。

 光の源はもう見えない。

 代わりに、新たな光が大地を照らし始めた。

 それは太陽の光。まばゆいばかりの曙光が雲間から差しこんでくる。

 その向こうは晴れ渡った一面の蒼。分厚い雲に開けられた空洞は、陽光に熔けるかのごとくその蒼さを広げていく。

 透き通ったカーテンを思わせる日の光は、やわらかな温もりとなって街に恵みをもたらした。

「……………。雨だ……」

 楓呼はヘリの中でそうつぶやいた。

 パイロットも、兵士も、夕紀も、幸運にもその景色を見ることができた者たちは皆、久方ぶりの青空と、陽光を受けてきらきらと輝く雨に見とれていた。

 真昼に天降る狐雨。一陣の涼雨は乾ききった世界を潤わせていく。

 ほんのりと暖かいその雨は、誰かが流した涙のようだった。







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