第陸章/蒼茫の傷痕、澱む流砂


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 人界は真昼の夜に包まれていた。

 人々の住まう世界は、徐々に、だが確実にその様相を変えようとしていた。

〈えー、こんにちは! 毎晩放送の田宮です! 私たちはいま……ザッ……瀬戸内海の情景を取材に来ています! ご覧ください。普段は穏やかであるはずの海は、大波が岸を打ちつけ、我々、取材班もこれ以上近づくことができません!〉

 荒れ狂う波濤が電波を遮り、テレビの画面にノイズを走らせる。

〈……ザザッ……日中だというのに雲が空を厚く覆い、皆既日食でもあったかのように真っ暗です! 気象衛星が観測した映像によると! ザーッ……の雲は日本を中心に広がっており! お隣の国、中国までも───と、ああっ?!〉

 カメラの集音器が暴風を千切る回転翼の音を拾った。同時に無数の飛行物体が画面をかすめるも、機影は疾風のように過ぎ去ってしまった。

〈カメラさん撮れましたか───無理?! ええいこの役立たずが! ………あ、失礼しました! 自衛隊のヘリコプターでしょうか? 何機ものヘリがあっと言う間に私たちの頭上を通過して見えなくなってしまいました! さっそく追いかけて───〉

 みましょう、と叫ぼうとしたレポーターの前に屈強な人影が立ち塞がった。

 次の瞬間、レンズに男の手のひらが被せられ、画面が防刃手袋のシワで一杯になる。

〈はぁ?! ………ちょっ、なんなのよあんた達?! ───レインコートを着た男が私たちを包囲しています! 報道の自由を阻止しようとするサタンの手先でしょうか?!〉

〈ここは危険です。撮影を中止して、すぐに───〉

〈●ァーック! 国家権力上等ってのよ! 自衛隊だからって報道の戦士をやりこめるなんて思わないことね───きゃあっ?! ちょっと、変なとこ触らないでよ! ……あ、え、えーと、ここで一度局に戻したいと思いますっ!〉

 某テレビ局の某レポーターの報告によると、このあと自衛隊にカメラを没収され、撮影は続行不能。十数機の武装ヘリの行方は杳(よう)として知れる事はなかった。







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